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神戸地方裁判所 昭和39年(行ウ)6号 中間判決

原告 武智祥行

被告 西宮税務署長

訴訟代理人 叶和夫 外三名

主文

被告の本案前の抗弁を却下する。

事実

被告および法務大臣指定代理人等は本案前の抗弁として「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告訴訟代理人は、訴状において、「被告が原告に対し、昭和三七年三月一三日付をもつてなした昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その後昭和三九年一二月一二日の本訴第三回口頭弁論期日において、本訴請求を「被告が原告に対し昭和三八年一月一八日付をもつてなした昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める趣旨に訂正した。

被告および法務大臣指定代理人等が本案前の抗弁として主張した理由の要旨は、

原告が本訴において当初取消を求めた昭和三七年三月一三日付の昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定(以下昭和三七年三月一三日付決定と略称する)は被告が未成年者である原告宛に通知、送達したものであつたので、被告は昭和三八年一月一六日付でこれを全部取消し、改めて同年同月一八日付で右と同一内容の所得税および無申告加算税の各決定(以下昭和三八年一月一八日付決定と略称する)を原告の法定代理人親権者に通知、送達したものである。

而して、原告は当初昭和三七年三月一三日付決定の取消を求める旨申立て、その後、決定の日付を誤記したとの理由で、請求の趣旨を昭和三八年一月一八日付決定の取消を求める旨に訂正すると申立てた。しかしながら、原告のなした右訂正の申立なるものは、取消を求める対象たる行政処分を変更するものであり、訴の変更に外ならない。

そうだとすれば、原告のなした右訴の変更による新訴は訴外大阪国税局長が右昭和三八年一月一八日付決定についてなした「審査の請求を棄却する。」旨の裁決が原告に送達された昭和三九年五月一日から三カ月以上を経過した後になされたものであるから、すでに出訴期間を徒過し不適法といわねばならず、加えて原告が当初取消を求めた昭和三七年三月一三日付決定も前述の如く全部取消され、訴訟の客体を欠くに至つているのであるから、いずれの点からしても本件訴は却下を免れないものである。

というものである。

これに対し、原告訴訟代理人は、原告が訴状訂正の申立をなしたのは、被告より右賦課決定に関し同一内容の二個の処分がなされていたので、その決定の日付を誤つたためであると述べた。

理由

よつて、本案前の抗弁について検討するに、

原告が訴状において「被告が原告に対し昭和三七年三月一三日付をもつてなした昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定」の取消を訴求し、後に本訴第三回口頭弁論期日(昭和三九年一二月一二日)において陳述(同日提出)した訴状訂正申立書により、本訴請求の趣旨を「被告が原告に対し昭和三八年一月一八日付をもつてなした昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定」の取消を訴求する旨訂正すると申立てたことは本件記録に照らして明らかである。

而して、被告が原告に対してなした右昭和三七年三月一三日および昭和三八年一月一八日付の両行政処分は、被告が自認する如く、その内容において同一であり、ただ通知、送達の日時および相手方を異にするにすぎないものであつたとしても、それ等が現実に存在したものである以上別個の行政処分であり、その取消を訴求する対象としてもまた別個のものであるといわねばならない。従つて、原告のなした右訂正の申立は単なる誤謬の訂正とはいえず、これによつて新たな請求がなされているのであるから、訴の変更と解するのを相当とする。

ところで、右訴の変更は原告のなした審査請求(昭和三八年一月一八日付決定に対するもの)に対する大阪国税局長の裁決が原告法定代理人に送達された昭和三九年五月一日から三カ月を経過した後である昭和三九年一二月一二日になされたものであるから一応形式的には不適法と認められないこともない。

しかしながら、被告も自認する如く、原告に対する昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の各決定に関してはその内容において全く同一であるにも拘らず日付の異なる二個の行政処分が存在しており、かかる誤認を生じ易い二個の処分がなされるに至つたのは、被告が当初になした行政処分を誤まつて未成年者である原告に通知送達したため、当該処分を全部取消し、改めて同一内容の処分を原告の法定代理人に通知、送達したためであるというのであるから、原告が本訴においてその取消を訴求する対象たる行政処分を取違えたことにも無理からぬ点が存するのであり、しかも原告が、本訴請求の原因において、右訴の変更の前後を通じ終始同人に対する昭和三二年度および昭和三三年度の各所得税および無申告加算税の賦課決定の取消を求めており、かつ右賦課決定が前記審査請求の目的となつた行政処分である旨主張していること、更に原告が右賦課決定(何日付の処分であるかは不問に付せば)を争うため本訴を提起した時(昭和三九年六月五日)は前記審査請求の目的となつた行政処分に関する出訴期間の遵守の点において欠けるところのなかつたことは、いずれも本件記録に照らし明らかなのである。

そうだとすれば、本件においては取消を訴求する対象としての行政処分が形式的には二個存在したことになるのであるが、実質的にみれば両行政処分は通知、送達の日付およびその相手方を異にするとはいえ、いずれも同一の取消事由をもつて争いうる同一内容の所得税等の賦課決定であり、被告も、右の如き両行政処分が存在し、かつそれらのうち原告が訴状請求の趣旨において取消を求めた先日付のものが前記の如き事情からすでに取消されていることは十分これを承知していたというべきであるし、而も原告が本件訴提起当時右審査請求の目的となつた所得税等の賦課決定処分の取消を求めていたことは、本件訴状における請求原因全体の記載の趣旨からみて十分にこれを窺うことができるのであるから、本件の如く、訴状が右審査請求の目的となつた前記昭和三八年一月一八日付行政処分(原告が新訴において取消を求める行政処分)に関する出訴期間内に当裁判所に提出されている場合には、たとえ本件訴の変更による新訴が右行政処分についての出訴期間を経過した後に提起されたものであつたとしても、そのことによつては右新訴を出訴期間の法定されている趣旨に悖るものとして却下すべき理由にはならないと解すべきである。

よつて、被告の本案前の抗弁は理由がないと認められるので主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄 山下顕次 井上広道)

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